僕は映画館が好きだ。
もちろん映画そのものも好きではあるのだけど、特に映画館という場所がとても好きだ。
大学生の頃、なぜか人間関係に辟易していた僕は、サークル勧誘の荒波にも負けず、どこにも所属しないで、本当に好きなように過ごしていた。
同学年の奴らが サークル合宿で飲酒の洗礼を受けて富士五湖あたりをゲロで汚し、ひと夏過ぎたあたりでつがいを見つけて性行為に勤しんでいるのを尻目に、とにかく自分勝手に時間を使っていた。
具体的には、バイト、旅行、読書、そして映画館である。
当時はまだぴあが週刊で発行されていて、毎週購入して持ち歩き、空きコマが出来ようものならすぐに映画館へ向かっていた。
大学が渋谷の近くだったことも良かった。
シネマライズ、ユーロスペース、シネマアンジェリカ、シネマGAGA!、シアター・イメージフォーラム…
当時存在した映画館にはあらかた行っていたと思う。
現在その多くが閉館してしまったことが「映画館ファン」としてはとにかく残念だ。
映画館通いを始めてすぐ位に、確かシネマライズだったと思うのだが、橋口亮輔監督の「ぐるりのこと。」を観た。
とにかく脚本が素晴らしくて、痛く気に入った僕は、程なくして高田馬場の名画座「早稲田松竹」で打たれた橋口亮輔監督特集2本立てに飛びついた。
そこで、おそらく生涯心に残り続けるであろう作品に出会った。
それが「ハッシュ!」である。
大変おこがましいというか勝手な話なのだが、初めて観たときに「自分のための映画だ」と思ってしまった。
登場人物が全員自分だと思ってしまったのだ。
すぐにDVDを手に入れて、人から邦画のオススメを聞かれるたびに紹介し、おそらく人生において「となりのトトロ」の次くらいに何度も観た作品だと思う。
いまだに年に一回くらいのペー スで観ている。
簡単に内容を説明すると、栗田と長谷というゲイカップルと藤倉という女性が主人公で、藤倉が栗田に、ゲイであることを承知の上で子供を作らないかと提案する…といったものである。
今でこそ、レズビアンのカップルが精子バンクを利用して子供を作って育てる話とかは洋画でもたまに見かけるようになったが、同性愛に対してまだまだ風当たりが強かった2001年の日本でよくぞ作ってくれたとしみじみ思ってしまう。
色々な見方ができる作品だし、観る度に新しい発見があるのだが、この作品の大きなテーマの一つは「家族を再定義する」ということだと思っている。
優柔不断で自分が思っていることをストレートに言葉にできない栗田。
人生を割り切って刹那的に生きながら寂しさが隠しきれない長谷。
自分に絶望して自嘲的に惰性で生きる藤倉。
それぞれが自分に欠陥があると感じていて、それでも人との繋がりを求めて新しい形の共同体を模索する姿が、いつも自分と重なってしまう。
客観的に観られない。
この作品を最初に観た頃は、うすうす自分が性的におかしい(ゲイっぽいけど単なるゲイでもない)ということに気づき始めていて、いわゆるヘテロの人々が得られるような幸せは自分にはないとまさに思っていたから、ある種の救いのようなものを感じたのかもしれない。
と同時に、良くも悪くも「ああ、自分もやっぱり寂しかったのだ」と実感した。
これまで、映画館では何本も映画を観て来たけれども、時折、上記の「ハッシュ!」に代表されるような、うっかり自分の人生というか世界観に影響を与えるようなインパクトを持った作品に出会ってきた。
今後は、そういった作品についても、少しずつまとめながら、自分が何者かに迫りたいと思っている。