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童貞見聞録

アラサーのセクシャルマイノリティ童貞野郎が心に移りゆくよしなしごとをそこはかとなく書きつけるブログ

婚姻届記入例ものがたり~府中編~

駄文

割と真面目な内容が続いてしまったので、とびきりバカバカしい最近のお気に入りの遊びを紹介したい。

簡単に言うと、婚姻届の記入例を見ながら、その架空の人物の婚姻の背景を妄想するという遊びである。
婚姻届の記入例を見る機会というのはあまりないだろうが、これが結構面白いのだ。
各市町村によって多少異なるのだが、色々なイレギュラーなパターンに対応できるようにするために、結果的に複雑な家庭環境が想像されるような不可思議な記入例が出来上がっている場合がまま見かけられる。
養父養母の存在や国際結婚などは序の口で、一筋縄ではいかない難解なものも少なくない。
架空の夫婦なのだから、そもそも読み解く必要なんてないのだが、それをあれこれ考えるのが非常に楽しい。
今回は、この遊びにはまるきっかけになった府中市の婚姻届記入例を紹介したい。

 

まだ学生だった頃、同じ部屋にいた助教の方が結婚されて、お土産にプレゼントされたのが以下の紙だった。

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この婚姻届記入例のポイントは3か所ある。

一点目。
妻になる人の両親の苗字が異なること。
これは、妻の両親は離婚していることが想定される。
内縁の妻という線もあるかもしれないが、ここは無難に。

二点目。
妻の本籍が、仙台なのだが、現住所は府中で、しかも府中の家の世帯主が父になっていること。
これは、少なくとも仙台で産まれて、一家が府中に移住していることが想定される。
届け出日が不明だが、H26年から同居を開始していることから考えて、移住のきっかけは震災と考えるのが無難な線だろう。
それにしても「仙台の歌舞伎町」とも言われる歓楽街、国分町が本籍とは。すげえな。

三点目。
妻側の証人と思われる秋子さんは、妻よりも年下かつ本籍が同じであるにもかかわらず、苗字が異なっていて、いまだに実家と思しき場所で暮らしていること。
これは難問である。
妻より年下で本籍が同じな場合、当然妹である可能性が高いわけだけれども、既に苗字が変わっている。
しかも母親の苗字とも違う。
結婚しているのだろうと思うのだが、本籍が変わっていない。

 

以上のポイントを踏まえて、府中太郎と奥多摩花子の出会いから結婚までを妄想してみた。

1.最初の出会い~別れ

府中太郎は、府中市のごく一般的なサラリーマン家庭の生まれ。
優しく真面目な性格の太郎は、小中高と部活に励みながらも成績は決して悪くなかった。
孝行者の彼は、都内の私立大学に通うよりは、と考えて、大学の進学先に東北大学を選んだ。

一方の奥多摩花子は、国分町に飲食店を構える家の次女として生まれる。
父・春夫は優しく子供たちに好かれていたが女癖が悪く、妹の秋子が5歳を迎えるころ両親は離婚してしまった。
歳の離れた先妻の娘(姉)は、若くして出来婚を果たし、行方知れずになっている。
父の店を手伝いながら、母親代わりとして家事をこなし、妹の母親代わりとして奮闘する日々であった。
父のことも店のことも嫌いではなかったが、堅実な人生を歩むことを望んだ花子は、教師になろうと決心し、宮城教育大学に進学する。

 

二人は、大学1年のとき、同じ塾の講師のアルバイトで出会う。

太郎からみた花子は、同学年と思えないほど大人びて見えた。
若いころからの苦労の末の気丈さ。
飲み屋手伝いで鍛えられた軽妙なトークスキル。
都会でぬくぬく何不自由なく育った太郎にとって何もかもが新鮮で、恋に落ちるのに時間はかからなかった。
対して花子も、冴えないけれども真面目で誠実に人の話を聞く太郎には好感を持っていた。
ほどなくして二人は付き合い始める。
余談だが、太郎にとって花子は初めての相手であった。

しかし、付き合いを続けるには二人はまだ若すぎた。
何せ、育ってきた環境がまるで違う二人である。
普段から価値観の違いでぶつかることも少なくなかった。
花子は家の手伝い、太郎はサークルでそれぞれ忙しく、徐々にすれ違いが増えていった。
そんなある日、些細な口論からけんかに発展し、二人は別れることを選択してしまう。
別れをきっかけに花子は塾講師のアルバイトを辞め、時間の融通の利く家庭教師のバイトを店のつてをたどって始めることにした。

 

2.震災~東京へ

別れてから二人は特に連絡を取り合うこともなく、数年の月日が経っていった。

大学4年になった太郎は、早々に都内の企業に内定をもらい、次の春には実家近くのアパートからぴかぴかの新入社員として社会人生活を送ることが決まっていた。
花子は、宮城県の公立学校教員採用試験を受けるも残念ながら不採用。
非正規雇用の教員の口を決めて、次の年度での採用を目指していた。
その一方で、妹の秋子がついに高校生になり、母代わりとして頑張ってきた花子も感慨ひとしおであった。
それだけでなく、昔から家族ぐるみの付き合いのある近所の欅並木家の次男坊が、幼馴染から恋人にランクアップしたらしい。
妹と幼馴染の初々しい関係に目を細めながら、採用に向けて勉強を頑張る花子であった。

 

平成23年3月、そんな二人を震度6の揺れが襲った。

太郎はこの時、偶然にも東京に帰ってきていた。
4月からの社会人生活に向けて、まずは実家を拠点に準備を進めていた矢先だった。
テレビを点けて青くなった。
自分の見知った街が揺れている。
そして続く津波原発事故の報せ。
親しい人たちに無事を確認する連絡を入れる。
その中には花子も含まれていたが、ついに返事が来ることはなかった。
その年は卒業式も中止され、結局太郎はそのまま東京で過ごして新年度を迎えた。
仙台の様子が気になりながらも、忙しい日々に追われ、様子を見に行くこともできず数年が過ぎていった。

一方、花子は仙台で罹災した。
店が滅茶苦茶になっていくなか、必死に火の始末をつけて父と一緒に外へ出た。
幸い、家族は全員無事であったが、本当に大変だったのはそこからだった。
震災をきっかけに父は気落ちして一気に老け込み、店を再開する気力もなく酒を飲む日々が続いた。
花子は、家族の収入のためにも教員の仕事を必死にこなしていたが、余りにも忙しく、この年も採用試験に受かることはなかった。

そんな中でも妹と欅並木家の次男坊は愛を育み、むしろ震災をきっかけに、より強く将来のことを意識するようになっていた。
もともと次男坊は料理の道に進みたいと考えていた。
家業のホテルは長男が継ぐことになっている。
秋子の高校卒業を待って結婚し、自分たちの店を持つためにお金を貯め始めようと密かに計画を立てていた。

次の年、花子は一念発起して東京の教員採用試験を受験することにした。
花子には考えがあった。
いつまでも燻っている父親と教員の安月給で仙台で暮らしていくよりも、いっそ家族3人で東京に移住しようと。
意を決してその考えを話すと、逆に秋子から告白されてしまう。
実は、卒業したら結婚するつもりである、と。
当然、花子と父は早すぎると反対したが、本人たちの意志は固かった。
話し合いを続ける内に、花子にも別の考えが浮かび始めた。
店はいっそ秋子たちに譲って、自分と父だけが東京に行けば良いのではないか。
古くて汚いが、仙台でも最も華やかな場所だ。
実家がホテル業なら、おいそれとつぶれることも無いだろう。
そして、何より愛着があるから、店がなくなってしまうことは花子にとっても辛かった。
ついに、花子は秋子と共に父を説得し、めでたく花子が教員採用試験に合格したことがとどめとなって、父も重い腰を上げた。
そして秋子夫婦は、新しい店ができることを願って、店を譲ってくれた父への感謝を込めて、本籍を国分町に置いたのである。

 

3.再会~結婚

東京に移った花子と父は、府中で二人暮らしを始める。
環境が変わったことも良かったのだろう。
父も昔のつてを頼って、チェーン店の雇われ店長を始めて、昔のような生き生きとした姿が見られるようになってきた。
ようやく苦労の多かった花子の人生にも余裕が生まれ始めた。
二馬力となり、金銭的にも余裕が出始めた花子は、折角の東京暮らし。
ファッションや美容にも気を付けて、遅く来た青春を楽しみつつあった。

 

太郎は、いつものように会社から帰宅する途中、コンビニに立ち寄った。
コンビニ弁当と缶酎ハイ。
いつもの組み合わせを買って店を出ようとすると、雑誌コーナーで見覚えのある女がファッション誌を読んでいる。
顔が良く見えない。
太郎は、失礼だとは思いながら店の外から覗くと、目が合ってしまう。

あ、久しぶり…

実に5年ぶりの再会だった。

 

太郎は、震災のことを気にかけていたこともあり、無事が知れた安堵感と奇跡的な再会にぐっときていた。
東京に来た花子は昔よりもあか抜けて、以前よりずっと魅力的に見えた。
かつて自分を男にしてくれた女が美しくなってまた現れたのだ。
太郎は、猛アピールを開始した。

花子は、正直なところ、東京を楽しみたい気持ちもあったし、仙台の自分を知っている太郎と話すことは億劫であった。
それでも、何度も話すうちに、太郎の目を見ていると不思議な安心感に包まれることに気付き始める。

そうか。
あの震災で色々なことが変わってしまったけれど、この人の目は変わらない。

変わりゆく仙台の街に花子は既にノスタルジーを失いつつあったが、太郎の目に懐かしさを感じたのだ。
それから二人は急接近。
離れていた時間を埋めるように逢瀬を重ねて、ついにプロポーズ。
晴れて二人は結婚を果たしたのだ。

 

終わりに

どうだっただろうか。
一応矛盾はないと思うのだけれども、知識がない分、現実的ではない部分があったかもしれない。
ただ、一つ言えることは、ものすごく書いていて楽しかった。
間取りと言い婚姻届記入例と言い、余白の多いものから色々と妄想するのが、僕はどうも好きらしい。

それにしても、府中市の記入例はやはり名作だと思う。
上のストーリー以外にも、例えば、秋子が姉の連れ子で苗字違うパターンというのも面白そうだ。
一枚で何度でも楽しめる。
この他にも、素敵な記入例が見つかった折には、また書き留めておきたい。