童貞見聞録

アラサーのセクシャルマイノリティ童貞野郎が心に移りゆくよしなしごとをそこはかとなく書きつけるブログ

別れ話

あなたから電話があったのは、確か3年前の夏でしたね。
突然、仕事用のPHSに非通知の文字。
まだ勤め始めの新人時代で、少しドキドキしながら出たのを覚えています。
軽妙なトーク、美しい声、ただ頷くしかできなかった。
もっと聞いていたかったけれど、生憎その日は仕事が立て込んでいてそれ以上は無理。
それを伝えると、あなたは少し残念そうな声で「またかけます」。
突然仕事場に電話を入れられて、こちらに非はないはずなのに、何故か少しだけ罪悪感を感じました。

程なくして、昼休みにまどろんでいたところへ、また電話が。
今度のあなたは何だか違った。

「是非お会いして話がしたい。」

ちょうどその週末に近所に来る予定があると言う。
本当に何故か分からないのだけど、OKしてしまった。
確かに、あなたという人間に少しだけ興味を引かれたことは否定できない。
でも、今になって思えば、このときに会うべきじゃなかった。
お互いのためにも、もっと強く断っておけば良かったと、後悔しています。


約束の日。
想像よりずっと若かったあなた。
想定通りの会話と一連のやりとりの後、世間話をしたのを覚えていますか。
あれは本当に楽しかった。
元々ラジオの仕事をしていたと聞いて、電話口の美しい声音に合点がいった。
お気に入りの番組は何か、どうして仕事を変えたのか、すっかり興味津々で根掘り葉掘り聞いてしまって、あの時はごめんなさい。
何でも、とあるパーソナリティの方に、一度別の仕事を経験するように勧められたとか。
それが本当に良い判断だったのかは分からないけれど、一人のラジオファンとしては、あなたがまたラジオ業界に戻られることを心の底から期待しています。
あのとき、余計なお世話と思いつつお伝えしたように、そちらの業界はせいぜい盛り上がったとしてもオリンピックまで。
お金を稼げるだけ稼いで、経験も積むだけ積んだら、決して後ろを振り返らずに本来の場所へ戻るべき。
どうか、目的を見失わないで欲しい。

そんな楽しい時間でしたが、一つだけ嫌なこともありました。
あなたは一人だけで来るものだと思っていたけれど、上司と呼ばれる方と一緒でしたね。
色遣いがはっきりした未来予想図のような資料を見せながら、こなれているけれどもつまらない喋り方をする人だった。
まさに、そちらの業界の典型的なタイプ。
言い方は悪いけれども、俗物という感じだった。
これは完全な偏見だけれど、40歳を過ぎてピンクのYシャツと先のとがった革靴を履いている大人は、あまり信用したくありません。
そんな状況なのに、彼には入り込めないラジオの話で盛り上がったり、あろうことか現在の仕事が踏み台のような言い方をさせてしまった。
帰りにあなたが叱られたのではないかと、少し心配になりました。

 

それからは、時折電話はあっても、特に何ということもなく1年くらいが過ぎていきましたね。
ところが、1年くらい前、急に頻繁に電話が掛かってくるようになりました。
多い時は日に何回も。
何か焦っているようだったけれど、きっかけでもあったのでしょうか。
あの感じの悪い上司さんにプレッシャーでもかけられたのでしょうか。
でも、実を言うと、この頃にはもうすごく億劫になっていました。
それに、こちらも仕事が忙しくなっていて、実際なかなか相手ができない。
電話に出るたびに言い訳をしたり早く話を切り上げたり。
気が付くと、昼休みに掛かってくる非通知の電話には出ないようにしている自分が居ました。

これはおかしい。
精神衛生上良くない。
第一、業者から非通知で掛かってくることもあるのに、仕事に差し支える。
そこで、あなたとの別れを決意しました。

 

去年の秋、いつものようにあなたから電話が。
以前と同じく、会って話せるタイミングを探ろうとするあなたを遮って

「もう掛けてこないで欲しい」
「どんなに話しても、あなたの期待には応えられない」
「これ以上はお互いの時間の無駄です」

別れ際、あなたは、もう一度ラジオの話がしたかった、と言っていた。
もっと別の場所で、別の関係で出会っていたら、そうしたかった。
でも、あなたの本当の目的はラジオの話じゃないでしょう。

そもそも、一度会って話したことが間違いだった。
その会話を楽しんでしまったのが良くなかった。
あなたに、あらぬ期待を持たせてしまった。
こちらも悪かったと思っています。
別に、あなたが嫌いになったわけじゃない。
でも、もうこの関係を続けるのは、不毛です。

(終わり)

 

最近、まとめやレビューばかりだったので、思い切り下らない記事を書いてみた。
ここ数年の間の不動産営業とのやりとりを別れ話風にまとめるという試み。
電話を煩わしく思ったり、思い出話を語られて謎の罪悪感に襲われたり、これは、本や漫画で読んだ恋そのものでは?と思いついてしまった。
ところどころ誇張もあるが、基本的には実話をベースにしている。
これを教訓に、今では営業の電話があっても即座に断っている。
思ったより筆がのったな、という実感はあるが、本当につまらない記事を書いたと少し反省している。