童貞見聞録

アラサー超えてアラフォーのセクシャルマイノリティ童貞野郎が心に移りゆくよしなしごとをそこはかとなく書きつけるブログ

おっさんずラブ

もう乗り遅れまくってる感があるが、出張と実験と仕事の波がようやく引いて時間ができたので、ネットの海に書いて残しておこうと思う。

おっさんずラブ」、流行に乗って楽しく観させてもらっていた。
僕は割と天邪鬼なところがあって、皆が「良い」と言っているものはあえて避ける傾向があった。
でも、「良い」と言われるものにはそれなりの理由がある。
それを、つい最近「けものフレンズ」で思い知らされたばかりだった。
下らないこだわりは捨てようと、確か5話くらいからだったと思うのだが観始めた。
あれよあれよという間に魔性のノンケ・はるたんの魅力にやられ、結局1-4話もU-NEXT配信でしっかり視聴、最終話に至ってはリアルタイムでかぶりつき、という状態であった。

おっさんずラブ DVD-BOX

僕自身は、「おっさんずラブ」は同性愛をメインに扱った作品とは思っていない。

確かにタイトルからはそれをテーマにしているような印象を受けるけれども、この作品の本質はそこにはないと思うからだ。
本質は、ラブコメの王道「人を好きになるのに理屈はない」という点のみにあり、後はそれを巡る気持ちの行き違いとか駆け引きの面白さがあるだけだ。
「同性愛」は、ただ単に極上のラブコメを演出する材料の一つで、例えば「幼馴染」とか「職場内」とか「歳の差」とか「元恋人」とか「離婚」といった定番のものと、完全に並列で扱われている。
当事者(セクシャルマイノリティという意味で)の一人として、この扱われ方は実に心地よいものだった。
何故なら、その扱われ方こそ「差別されていない」ということだと思うからだ。

そして、おそらく、「おっさんずラブ」はそれをかなり意識的にやっていると思われる。
この作品世界には、「同性愛」を必要以上に特別視(差別)する人間がほとんど出てこない。
脇役たちも、異性愛と同じように噂し、応援し、成就すれば祝福する。
それぞれのキャラクターにちゃんと納得できる背景と心理描写が用意されていて、人格的な破綻がない。
異性愛者の友人が「おっさんずラブの世界に行きたい」とうわ言のように呟いていたが、この感想は同性/異性愛者関係なく全員が持つものだろう。
安心してラブコメの面白さだけに集中できるよう、意識的にある種のユートピアを作り上げたのだろうと感じている。
おそらく本作で唯一「同性愛」を特別視しているのは、他ならぬ主人公はるたん(春田)なのだが、その欠点すら他の諸々の欠点と同列に扱われる(鈍感とかデリカシーがないとか優柔不断とかうつ伏せで寝るとか)。
その徹底ぶりに、新しい時代のドラマの可能性を見た気がした。

 

ところで、本作についてTwitterで以下のような意見を目にした。

平然とアウティングをする春田が許せない。同性愛者の置かれている立場が分かっていない。

物語の後半で、はるたんは同じ職場の牧くんと付き合い始めたことを職場で公表するシーンがある。
それを指しての意見であったと思われる。

言いたいことは分かる。
でも、僕はこの意見こそが差別意識に侵されているように思えてならない。
何故なら、この場合のアウティングが悪いのは「同性愛」だからではないからだ。
仮に「異性愛」であったとしても、相手の合意を得ずに公表することは許されない。
それに、この時のはるたんの行動は、このドラマの中で決して良いこととして扱われていない。
ちゃんとその後に態度を硬化させる牧くんとそれに戸惑うはるたんが描かれている。
そして、それは「同性愛だから」ではない。

 

さて、上記のようなことを感じたのは、同時期に観ていた(今も観続けている)とある作品での「同性愛」の扱われ方に辟易していたせいかも知れない。
それは朝の連続テレビ小説半分、青い。」である。

www.nhk.or.jp

半分、青い。」には、主人公の仕事仲間にゲイの青年ボクテというキャラクターが出てくる。
このボクテは、かなりステレオタイプなゲイのイメージを具現化したようなキャラクターで、はっきり言って酷い。
「僕って~、ゲイだから~」という枕詞も聞くに堪えない。
何故ゲイを代表するような台詞を言わせたがるのか。
しかも、そこで披露されるゲイあるあるのようなエピソードも陳腐でかつ不遜。
朝ドラに同性愛者のキャラクターが出たということ自体は快挙だと思うが、これなら出さない方がむしろ良かったとすら感じている。
いくら異例の大ヒットとは言え、「おっさんずラブ」に比べると「半分、青い。」の方が視聴者の層は厚いだろう。
ああ、多くの日本人にとっては所詮こんなイメージなのだと暗澹たる気持ちになってしまう。

 

ほとんど語れなかったが、「おっさんずラブ」は演出や絵作りにも強いこだわりが感じられて、とても丁寧に作られたドラマだった。
聞けば製作チームはかなり若いスタッフで構成されていたようで、これからの時代のドラマに一層期待を持てると嬉しく思っている。
7話でコンパクトにまとまっているところも潔くて良い。
もし未視聴の方がいれば、是非、観てみて欲しい。