童貞見聞録

アラサー超えてアラフォーのセクシャルマイノリティ童貞野郎が心に移りゆくよしなしごとをそこはかとなく書きつけるブログ

アニメに潜むノイズ ~ SHIROBAKO x 映像研には手を出すな!

新型コロナ騒ぎを受けた外出自粛のために、自宅で過ごすことが多くなった。
出かけられないとなれば、皆やることは同じである。
僕も、いわゆるサブスクによって映画やアニメを見る機会が増えている。
これまで友人や同僚から薦められてはいたけれども観ていなかった作品なんかを端から観ている感じだ。
その中で、自分がハマる・ハマらないアニメには、結構つまらない規則性があることを発見した。
薦められたのは、いずれも傑作の呼び声高い作品ばかりである。
それが、割としょうもない理由で自分が乗れていないことに気が付き、自分はアニメを観るの向いてないんじゃないかと思っている位だ。

それが、顕著に表れて明暗を分けたのが、「SHIROBAKO」と「映像研には手を出すな!」の二作品である。
どちらもアニメ製作を題材にした作品だし、何かと比較されることが多いように思う。
が、その描き方は大きくかけ離れており、僕の気持ちの乗り方はまさに正反対であった。

 

嫌いなものは先に食べる派閥所属なので、乗れなかった方を先に。
SHIROBAKO」である。

2014年の末から放送された作品で、高校のアニメーション同好会のメンバー5人を軸に、大人になった彼女たちが実際のアニメーション製作の現場で奮闘する様が描かれている。
新型コロナ騒ぎで大変なことになる直前、今年の2月末に劇場版が公開されて、最近も良く話題に挙がっている作品である。

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この作品が、描こうとしている本質部分については、別に否定しない。
というか、「ものづくり」というテーマ設定自体は、二作に共通している部分である。
ところが、その本質部分がどうしてこうも心に響かないのかというと、本作にずっとまとわりついている「ノイズ」が原因だと思うのだ。

例えば、主人公宮森のキャラクター。
可愛く、元気で、前向き、優しい。
だけど、結構運転荒くてカーチェイスとかもしちゃうよ。
例えば、作画監督瀬川さんのキャラクター。
有能な巨乳アニメーター、頑張り過ぎて倒れちゃったりするよ。
それ以外にも、ツインテールの製作進行とかゴスロリ服の総作画監督とか。
まあ挙げるときりがないのだけれども、これでもかという程、キャラクターのデザインから設定まで「お約束」のオンパレードなのだ。
より正確に言うならば、男性オタクに受けそうな美少女アニメの定番だ。
ギャップ萌えとか、コスチュームとか、ツンデレとか。
ある種の性描写と言っても良いかも知れない。

こういう「お約束」は、刺さらない層にとっては、ただただノイズにしかならない。
何故なら、その描写そのものは本筋とは関係がないからだ。
とは言え、僕もそれなりにはアニメを観ている方だし、そうした「お約束」だって理解しているつもりだ。
多分、この作品がファンタジーとか学園ものとかのジャンル作品であれば、まあそういうもんと思って楽しめたかもしれない。
実際、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」も同様のノイズが気になる作品だったのだが本作ほどではなかった。
なにしろ、舞台はアニメ製作会社である。
描かれているのはまさに「ものづくり」の現場そのもの、超現実的な話なのだ。
なので、とにかく「お約束」との相性が悪い…と僕は感じてしまった。

例えて言うならば牛丼にチョコレートソースをかけて出されたような気分なのだ。
本質とは全く異なるところで合わないなどと、ファンの方には怒られても仕方ないだろう。
でも、好みの問題なのでこればかりは仕方がない。

 

これに対する「映像研には手を出すな!」はと言うと、そうした「お約束」が徹底的に取り除かれた作品だったと思う。
SHIROBAKO」とは異なり、こちらは高校でのアニメ製作を描いた作品である。
今年の年始からNHKで放送が始まり、湯浅監督最新作ということもあって海外でも話題になっていた。
主人公3人が、それぞれ監督、アニメーター、プロデューサーを受け持って、「ものづくり」に奮闘する姿を描いている。

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上の画像を見ても明らかなように、主人公3人は、特別美少女として描かれることはない。
いや、正確に言うとアニメーターを担当する水崎氏は、カリスマ読者モデルとして本作の世界では美少女ということになっている。
が、彼女の振る舞いや人となりに「お約束」はない。
谷間もなければパンチラもない。
実は「お約束」の一つになりがちな温泉回というか銭湯回があるのだが、それだって性的な要素は皆無である。
女子高生3人が裸で風呂に入っているのに、あんなにやらしくないアニメはなかなか貴重だと思う。

さらに、本作が凄いと思うのは、いわゆる青春もの的な「お約束」も排しているところである。
SHIROBAKO」では、冒頭、高校時代の主人公たち5人が、一緒にアニメーションを作ろうとドーナツで誓いを立てるシーンがある。
「映像研には手を出すな!」に、そんな爽やか青春シーンはない。
仮に、何かに向けて誓いを立てたとしても、それは偶然その時に利害が一致したに過ぎない。
互いの利害がぶつかれば口論するし、うまくいけば喜ぶ。
でも、未熟なコミュニケーションによるすれ違い、ぶつかり合い、でもそれをきっかけに絆を確認し合った最高の友達と、一緒に最高のアニメを!とは全くならない。
むしろ、本作は、そうした描写を最も嫌っている節がある。
3人は、最初から自分の足で立っていて、「最高の世界」は自分たちの中にある。
チームは仲間であり、アニメ製作は各人のコラボレーションによって行われる。

確かに、よりドラマティックなのは「SHIROBAKO」かも知れない。
それに、実際のアニメ製作現場に即した現実感のある製作風景も描けているのかも知れない。
でも、少なくとも「ものづくり」に向ける情熱という意味では、本作の浅草氏、水崎氏の方から、よりストレートに伝わってきた。
端的に言えば、「アニメーションっておもしれえ!」「アニメーターってすげえ!」と素直に思える。
それに、本作を観た人なら皆言うことだと思うが、敏腕プロデューサー金森氏の存在が光っている。
アニメ製作を単なる「ものづくり」で終わらせずに、それをどうプロモートしていくか(もっと簡単に言えば、どう金に換えていくか)、というところまで踏み込めたのは彼女がいてこそだ。
この視点は、どんな「ものづくり」にも言える、持続可能な製作のための極めて重要なポイントである。
本作の特殊な世界観がどんなに現実離れしていたとしても、こうしたポイントが必ず現実に引き戻してくれる。
金森氏は、ある意味「SHIROBAKO」における主人公・宮森的な役回りを担っているわけだが、その描かれ方は全く異なる。
そして、僕は、間違いなく金森氏の方が好きだ。

 

結局、僕は性的なメタファーを持った「お約束」が嫌いなだけなのかも知れない。
今回問題にしたものとは逆の、少女漫画や女性オタク向け作品で見られる「お約束」も確かに苦手だからだ。
そしてそこには、僕の無性愛者的な側面が深く関係しているような気がする。

性描写そのものが嫌いなわけでは決してない。
でも、記号化された性を「お約束」として提示する場合、少なくとも製作者は、それを視聴者に向けたフックとして使っているはずだ。
でも、僕はそれに乗れない。

この物語は、少なくとも僕のためには作られていない

作品とメイン視聴者の輪から疎外されたような感覚。
これが、僕が感じるノイズの正体ではないかと思っている。