昨日引越し後の片付けが大方終わったのを良いことに、早朝から映画を観に出掛けてきた。
敬愛する橋口亮輔監督の最新作「お母さんが一緒」だ。
本当はもっと早く観に行きたかったのだが、引越しのドタバタのせいで後回しになっていた。
間に合って本当に良かった。
橋口監督と言えば、「渚のシンドバッド」「ハッシュ!」「ぐるりのこと。」「恋人たち」と、この世に居場所をなくしたような者たちの懸命にもがく様を写しとってきた方である。
自分もその作品に救われ続けている一人だと勝手に自負していて、9年ぶりの最新作とあっては劇場に足を運ばないわけにはいかなかった。
ただ、予告を見た限りでは、これまでの作品に漂っていたただならぬ緊張感みたいなものは抑えられていて、一見普通のホームコメディ。
しかもオリジナルではなく、舞台作品の映像化ということで、少しこれまでとは毛色の違ったものなのかなと推測していた。
結果、確かに今までのようなずしんと来る重みはないものの、想定していたよりしっかり橋口作品のイズムが光っていて、久々に劇場で声を立てて笑ってしまった。
橋口作品に通じている大きな要素は、その「生々しさ」だと思っている。
どの台詞・仕草とっても、そこにその人物が「生きている」感じがする。
だから、まるでこの人物は自分なのではないかと錯覚する。
時に痛みを感じるほどヒリヒリするし、時に共感性羞恥で直視できなくなってしまう。
今回の役者陣、江口のりこさんを筆頭に内田慈さん、古川琴音さん、青山フォール勝ちさん、いずれも観客の脳内に同化するほどの名演を見せていた。
パンフレットを買って読んでいたら、前作「恋人たち」の後も幾つか映画の企画はあったようだけれどなかなか脚本を完成させることができなかったようだ。
確かに、橋口作品は、自分の魂を削り出して作り上げたような作品ばかりなので、寡作なのもむべなるかな。
そんな状況で、CSチャンネルでのホームドラマ製作の話が舞い込んだらしい。
今作は、その5話分のドラマを再編集して劇場化したものと言う。
ホームドラマらしい軽やかさと、橋口作品らしい剥き出しの人間の愛らしさが同居して、とても新鮮かつ楽しい時間を過ごせたと思っている。
ドラマの映画化とは言いつつ、劇場で観ても見劣りしない絵力もある。
次の橋口作品では、またどんな一面を見せてくれるのか。
期待と信頼しかない。