童貞見聞録

アラサー超えてアラフォーのセクシャルマイノリティ童貞野郎が心に移りゆくよしなしごとをそこはかとなく書きつけるブログ

2024年9月22日

数日前、NHKの「今君電話」と言う番組を観た。

www.nhk.jp

番組表を眺めながら録画予約を入れていた時、Eテレの欄で偶然見つけた。
番組内容はまるで分からなかったが、何となく気になって予約しておいたのだ。

SNSで電話番号を公開し、何でも良いから話したいことを一般の人に話してもらって、それを聞くだけの番組。
案内人はカンニング竹山氏。
確かに彼は、同じEテレの名企画「ねほりんぱほりん」の大ファンを公言しているし、こういった番組が好きなのだろう。
悩みなのか呟きなのか惚気なのか叫びなのか告白なのか、かかってくるとにかく雑多な言葉に耳を傾けて、特にそれを教え諭すでも解決するでもなく繋いでいく。
調べてみると、3年も前から不定期で放送していて、この回で13回目だったらしい。
なかなか面白かったので、また番組表で発見したら、間違いなく予約するだろう。

この番組に寄せられる声は、こんなことを言っては角が立つかも知れないけれど、とてもありふれている。
程度の差こそあれ、どこにでも転がっているような、悪く言えば陳腐なものがほとんど。
母親と気が合わない、夏休み明けに学校に行くのが憂鬱、仕事場の人間関係が悪く意見を言えない、遠距離恋愛が不安…
もちろん電話をかけてくる当事者たちにとっては深刻なものだろうけれど、言葉にしてまとめてしまうと、それこそこの世に掃いて捨てるほどある状況だ。
でもだからこそ、その着飾っていない言葉が酷くリアルで、共通する思いを抱えた視聴者に共鳴しやすいのかも知れない。
出演者たちは、電話を通して言語化することで少し救われ、さらに放送されて共感を刺激し誰かの孤独を少し和らげる。
何だか集団セラピーのような番組だと感心してしまった。

この回で、僕が特に気になった声がある。
若い女性からの電話で、その方は前にもこの番組に出演したことがあると言う。
その時に、大学で文系の学部に在籍しているのだけれどもIT関係の仕事に就きたくて就活をしているが、うまくいっていないと言うことを打ち明けていたらしい。
それを受けての今回、何と6社から合格の通知をもらえたということだった。
お礼と報告のための電話だったようだ。
就活中は、文系でIT関係のスキル不足を懸念されて、あまりうまくいかないと心配していたようだったが、入社を決めた企業は、彼女自身の話をじっくり聞いてくれたらしい。
ちゃんと自分自身を評価してくれた会社ならば大丈夫だろう…
次の4月からは、その会社でシステムエンジニアとして働くことになる。

これは僕の予想だが、きっと彼女はもう一度来年度電話をかけてくることになるだろう。
そして、それは、きっとあまり良くない報告だ。
だって、サラッと聞いている限りでも、その会社はハズレだからだ。
IT関係の会社でスキルが求められるのは当たり前。
むしろスキルを気にする会社の方が、効率的に仕事を回している可能性が高い。
スキルではなく社員の個性を気にするのは、単に従順で勤勉な一兵卒を探しているに過ぎない。
予想が外れていてほしいものだが、彼女がその会社に消費されてしまう未来がどうしても浮かんでくる。
ただそんな甘い夢を見ているくらいだから、おそらく入社して早々に何か違うことに気がつくはず。
何だか思っていたのと違うなあ…
そして段々と足が向かなくなって、6月くらいには再び就活をすることになる。
その環境でも無理してしがみついてしまうような強さも持ってなさそうなところが、逆に救いかも知れない。
それでも僕は、彼女の嬉しいはずの報告から恐怖しか感じなかった。

でもきっと、この彼女の話も、この令和の日本ではうんざりするほど良くある状況なのだろう。
利益を追求する組織である企業の中の論理と、対価が曖昧で感情の共有が基本の家族や仲間の論理が混同されている。
企業では自分が役に立つことを示さねばならないし、その働きが搾取されないように戦わなければならない。
自分だって彼女くらい若かった時は、そんなこと分かっていなかっただろう。
まして彼女たちは、その前の仲間との時間すら新型コロナ流行によって満足に取れなかった節さえある。
圧倒的な経験不足。
「ちゃんと話を聞いてくれた」と話す彼女からは、新型コロナに振り回された若者達の孤独感みたいなものまで垣間見えて、何だか申し訳なくさえ思ってしまった。

ここまで書いておいて何だけれど、ここに書いたことは単なる僕のお節介な偏見に過ぎない。
この碌でもない予想が大いに外れることを、願ってやまない。