4/10にリリースされて以来、ずっと「SCIENCE FICTION」を聴いている。
デビュー25周年を記念して、宇多田ヒカル自身がセレクトして再録・再編集された全26曲のベストアルバム。
それこそ、彼女が衝撃的なデビューを果たした時から、時折離れたりしつつもほぼずっと聴き続けてきた自分としても、何だか記念碑のように感じている。
聴いていて驚くのは、あまり懐かしいという気持ちにならないこと。
実際、Re-Recordingされている曲もあるし、古い楽曲はほぼRemixされているし、古くならない工夫が凝らされている。
楽曲の順番も、かなり意識的に時系列が乱されていて、同時期にリリースされた楽曲が隣り合うことが避けられている。
ただそれ以上に、僕自身が、彼女の楽曲を絶えず聴き続けてきたことが大きい気がする。
特定の時期にその曲ばかり聴いていたら、もっと懐かしい気持ちになったかも知れないが、その時期に限らず人生の各場面で聴いていた分、曲に関連付けられた想い出も多い。
聴いていると、アルバムそのものと同じく、直近から古い記憶まで、場所も選ばずに同時に立ち上がってくるような、そんな不思議な感覚になる。
タイトルの「SCIENCE FICTION」は、彼女自身が自分の音楽を端的に説明するとしたらそう表現できるのではないか、という意図らしい。
まさに、そんな感じがする。
数日前に、彼女がファンと座談会をする形式のインタビューをテレビで放送していたので観ていた。
すると一人のファンが、「宇多田さんの楽曲からは時代を感じない」という指摘をしていた。
確かに、「PHS」とか「留守電」とか「リストラ」とか「Uber Eats」とか時代を感じさせる単語が使われることはあっても、その時代の流行りや意識が色濃く出るような楽曲はないような気がする。
けれども、年齢の変化を感じさせる楽曲は多い。
恋愛や結婚、出産、近親者の死、病気。
年齢を重ねると自然と増えていくライフイベントに合わせて、人間の心のありようや思想は絶えず変化していく。
それが、彼女自身の経験で裏打ちされて、見事に楽曲に閉じ込められている。
だからいつ聴いても、地に足が付いているしっくりとした説得力があるのだろう。
時代を超えた普遍的な人間性みたいなものが垣間見えて、そんなところも「SCIENCE FICTION」であるな、と感じる。
それにしてもこのアルバムの楽曲は、一体どのように選ばれたのだろうか。
幾つかのインタビューをチェックしたけれども、明確なことは書かれていなかった。
これまでに発表されたオリジナルアルバムは8枚。
今回のベストアルバムに採用された曲を見てみると、結構偏りがある。
- 「First Love」 2曲 Automatic (2024 Mix)、First Love (2022 Mix)
- 「Distance」 2曲 Can You Keep A Secret? (2024 Mix)、Addicted To You (Re-Recording)
- 「DEEP RIVER」 4曲 SAKURA ドロップス (2024 Mix)、traveling (Re-Recording)、Letters (2024 Mix)、光 (Re-Recording)
- 「ULTRA BLUE」 1曲 COLORS (2024 Mix)
- 「HEART STATION」 3曲 Beautiful World (2024 Mix)、Flavor Of Life -Ballad Version- (2024 Mix)、Prisoner Of Love (2024 Mix)
- 「Fantôme」 3曲 道、花束を君に、二時間だけのバカンス featuring 椎名林檎
- 「初恋」 2曲 あなた、初恋
- 「BADモード」 5曲 BADモード、君に夢中、One Last Kiss、Time、Somewhere Near Marseilles -マルセイユ辺り- (Sci-Fi Edit)
有名なシングル曲やドラマ・CM・アニメとのタイアップ曲から選択されていると思うが、やはり3枚目「DEEP RIVER」と最新アルバム「BADモード」からが多い。
実は僕自身、彼女のアルバム群の中でこの2枚は特にお気に入りで繰り返し聴いていたこともあって、何だか今回のアルバムは公式と解釈一致したかのような喜びがあった。
とは言え、ULTRA BLUEの1曲は流石に寂しいので、せめて「This Is Love」を入れてあげて欲しかった。
今回漏れてしまった楽曲にも名曲は多い。
特に、シングルカットもされずタイアップも付いていない曲たち。
裏ベスト的なものも、是非作ってもらいたい。
もし将来そんなアルバムが発表された時に備えて、今から僕なりの解釈で楽曲を並べておく。
一応、各アルバムから1曲ずつセレクトした。
- In My Room
- サングラス
- プレイ・ボール
- 日曜の朝
- 虹色バス
- ともだち with 小袋成彬
- 夕凪
- キレイな人
「キレイな人」は、正確に言えば英語版の「Find Love」がCMタイアップなのだが、Bonus Trackだった日本語版が余りにも好きだったので入れてしまった。
さて、何年後に答え合わせができるのか、あるいはそんな企画は生まれず何の意味もないのか。
とりあえず、選ぶのはとても楽しかった。