童貞見聞録

アラサー超えてアラフォーのセクシャルマイノリティ童貞野郎が心に移りゆくよしなしごとをそこはかとなく書きつけるブログ

2024年5月2日

明日からGW後半と言うことで、どこも混雑してしまうだろう…と言うことでそうなる前に映画館に行ってきた。
目当ては「リンダはチキンが食べたい!」
独特のタッチで描かれるフレンチアニメーション。
SNS等で話題になって気にはなっていたものの、なかなか観に行く時間が取れなかった。


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アニメーションとして、とても優れていた。
絵葉書から飛び出してきたようなビビッドカラーのキャラクターたちが、生き生きと自由に駆け回る。
基本的には、主人公リンダとシングルマザーの母ポレットが、パパの思い出の料理パプリカチキンを作ろうと引き起こすドタバタコメディ。
けれど、追いかけっこあり、すれ違いあり、カーチェイスあり、何とガンアクション(?)まである。
アニメーションを楽しくさせる要素の欲張りセットのような作品になっていた。

ストーリーそのものをどう感じるか、と言われると、少し規範意識や遵法心が邪魔をして素直に楽しめない部分があったのは否めない。
でも、様々な事象がカオティックに起きていく展開にはドキドキさせられて、飽きる瞬間はまるでなかった。
そして、非常に個人的には物語になってしまいそうな本作だけれども、ちゃんと後ろの社会背景が透けて見えるのが良い。
そもそも、主人公たちがパプリカチキンを作りたくても作れない最大の原因は、街で起きているストライキにある。
つまり、街はリンダよりも先にとっくに怒っているのだ。
社会の抱える大きな怒りと、リンダたち個人の抱える小さな怒り。
それらが同じ地平の上にあって繋がっていることが、感覚的に解る作りになっていたと思う。
リンダとポレットが暮らすアパートメントも、多民族で構成されて、お年寄りだったり幼い弟の面倒を見ている少女だったりが身を寄せ合っている。
その中にあって、パプリカチキンよろしく、全てを鍋に入れて火にかけたような大騒ぎが起こる。
それぞれが象徴する社会問題が、無意識的にも想起されてくる。

ただし、本作はこのカオスに特に良い答えを与えない。
パプリカチキンは出来上がったかも知れないが、おそらくそんなに美味しいものではなかったはず。
リンダもポレットも、他のみんなも、ストライキだって、特に変わらないし成長も多分ない。
考えてみれば、我々の世界はもっと混沌として色々な出来事が次から次へと起こっているが、そこで生きている人間は、自分も含めて簡単には変わらない。
ある意味で、超リアリスティックな物語だったんじゃないか。
カタルシスは特になかったかも知れないけれど、でも皆そうじゃんって言う。
荒唐無稽なようで凄くシニカルに写実していて、まさに西洋的な作品だったと思う。