童貞見聞録

アラサー超えてアラフォーのセクシャルマイノリティ童貞野郎が心に移りゆくよしなしごとをそこはかとなく書きつけるブログ

2023年10月15日

今シーズンは良くドラマを観ている。
朝ドラ「ブギウギ」が思いのほか面白かったのと、前作から視聴していた「大奥」と「きのう何食べた?」が始まったからだ。
観ているドラマの2/3がよしながふみさん原作、世間的にも個人的にも、何となく今必要とされている作家なのかも知れない。

「大奥」も「きのう何食べた?」も、どちらも原作から楽しませてもらっていた。
かたや謎の疫病によって男性だけが少なくなり、男女逆転の世界になってしまった江戸時代SF。
かたや中年ゲイカップルの日常を描いたホームコメディ。
両者テンションが大きく異なる作品だけれども、実は扱われているものに共通する部分があると思う。

よしながふみ作品は、作品群全般にわたって、ジェンダー含め"性"にまつわる諸問題が必ず描かれる。
もはやライフワークと言って差し支えないのではないか。
フェチズムや使命感のようなものすら感じる。

例えば「大奥」は、美男3000人というキャッチに目を奪われがちだが、実際のところは現代にも通じる"女性性の消費"が全体を貫く大テーマとなっている。
社会から強要される性、老いによる女性性の喪失、社会変化に伴う性役割の変質、性を介さない家族形成の提案…
実に現代的なテーマが、日本史で習った史実の中に巧みに織り込まれて提示される。
一方「きのう何食べた?」は、ゲイカップルを主人公に置いた現代劇であるし、現代のセクシャルマイノリティが抱える問題があちこちで顔を見せる。
その中でも、今作では特に"老い"にスポットライトが当たっている点が面白い。
本人たちの老いはもちろんのこと、その親世代まで含んでいる。
孫の顔を見せられずに老いていく親という、セクシャルマイノリティでなくとも多くの人が直面している(くであろう)現実が描かれる。
最近、最新刊までを網羅できていないので自信がないが、その内介護の問題も扱うのではないかと思っている。

よしながふみ作品は、決して社会はこうあるべきと強く主張するものではなく、あくまでも問題提起に留めて、むしろその問題の中で健気に逞しく生きる人々を描くことに専念する。
一応自分もセクシャルマイノリティの当事者の一人として、"性"の問題には否応なく巻き込まれる立場にある。
彼女の作品を抵抗なく読める理由は、作品に生きる"我々"が、決して可哀想な存在ではないと思えるからかも知れない。

ちなみに自分が最も好きなよしながふみ作品は、高校生の頃に読んだ「フラワー・オブ・ライフ」なのだが、その話は別の機会にとっておくことにする。