童貞見聞録

アラサー超えてアラフォーのセクシャルマイノリティ童貞野郎が心に移りゆくよしなしごとをそこはかとなく書きつけるブログ

2023年10月12日

帰宅したら、家のポストに結婚相談所のチラシが入っていた。
普段であれば即座にゴミ箱へ…となるのだが、そこにDNAマッチングなる文言があってうっかり読んでしまった。
なんでも、唾液を提供するとDNAを調べてHLA遺伝子というものに基づくマッチングをするらしい。
本能的に魅力を感じる相手というのが分かるんだそうな。
なんとも眉唾な話である。
ほぼ誰のことも好きにならず、でも男性により性的魅力を感じる僕は、一体誰とマッチングするのでしょう。
登録して調べてみるのも良いかも知れないが、そんな感じで本気でDNAマッチングに託している人と会うのは流石に良心が咎める。

そのチラシを見ながら、ある漫画のことを思い出して、家で少し読み返していた。

恋愛をする人間がマイノリティになってしまった近未来の日本を舞台にした作品になっている。
合理的な結婚相手をマッチングするシステムが発達して、恋愛を飛ばして結婚する"飛ばし"が主流となっている世界。
そんな合理性の象徴のようなシェアハウス「非・恋愛コミューン」でテロ事件が発生、多くの犠牲者が出てしまう。
本作は、その犠牲者の追悼記事を書いていく…というのを本線に、記者、犠牲者たち、犯人、犯人と関わりのあったNPOの男などにスポットを当てた群像劇となっている。
恋愛の価値が絶対視されなくなってきた現代において、"恋愛とは一体何か"と言う問いに真正面から答えようとした意欲作になっている。

元々幻冬社で連載されていたのが、突然打ち切りに。
もったいないなと思っていたところ、講談社に移って連載が再開された。
結局、幻冬社の時に3冊、講談社に移って3冊、計6冊で完結を迎えた。

初めて読んだときから、第3巻に登場するキャラクター百瀬が強く頭に残っている。

百瀬は、シェアハウスの元住人の一人で、ルームメイトの藤を事件で亡くしている。
彼は、誰のことも好きにならない人間で、自分の心には欠損があるのではないかと感じている。
両親からの圧力に負けてマッチングをしてみても、良心の呵責に苦しむばかり。
そんな悩みを唯一理解し、肯定してくれたのがネットでたまたま知り合った藤だった。
彼に誘われて、非・恋愛コミューンを隠れ蓑に共同生活を始めたところ、事件に巻き込まれてしまう。

読んだ時、ほぼ自分のことなのではないかと錯覚する気持ちだった。
どうして、誰かに何かしらの嘘を吐きながらじゃないと生きられないのだろう。
他の人が、何の疑問もなく当たり前に持っているものが自分にはないという焦り。
そんな風に思う必要はないと言ってくれる人が多いと思うけれど、でもそう言う思考はなかなか制御できるものではない。
「普通」であったなら、そんな思考に陥る瞬間なんか一度もなかっただろうな、と不公平感のようなものすら持ってしまう。

DNAマッチングに話を戻して、もしそれが本当だったとすると、つまり僕のこの在り方もまた、DNAで説明できてしまうのだろうか。
生まれた時から実は書いてあって、その上で泣いたり笑ったり翻弄されていたと言うことだろうか。
何だかそれは、とても絶望的というか、あまりにも詰まらない話だなと感じる。