童貞見聞録

アラサー超えてアラフォーのセクシャルマイノリティ童貞野郎が心に移りゆくよしなしごとをそこはかとなく書きつけるブログ

Time

ここ数日、宇多田ヒカルの新曲「Time」ばかりを聴いている。


宇多田ヒカル 『Time』Official Audio(Short Version)

宇多田ヒカルの登場によってR&Bを知り、以来ずっと心と体を揺さぶられながら成長してきた身として、最初の一音からもう痺れまくっていた。
宇多田ヒカル小袋成彬という組み合わせは、やはり最高である。

僕が大好きな彼女の詩も、今回はかなりシチュエーションが意識されたものになっていて、ドラマ「美食探偵」とのタイアップと言うことでそのキャラクターに寄り添ったものなのだと思う。
「と思う」と書いたのは、僕自身このドラマを未視聴なために実際のところは良く分からない。
わざわざLyricサイトまで準備されているところをみると、どうやら運営サイドとしてもこの詩に対する熱量が高いように思える。

www.utadahikaru.jp

新鮮なうちに感想を残しておこうと思う。
ただ、何度も何度も聴いている内に、また僕の悪い癖で、妄想がはかどってしまった。
流石タイアップと言うだけあって、そういった裏設定を付けたくなるようなドラマ性をもった歌詞なのだ。
というわけで、後半はほぼ気持ちの悪い妄想が書かれている。

 

僕は、デビューの頃からずっと、宇多田ヒカルと言う人の姿勢に強く共感している。
いや、好きになったのが先だとすれば、むしろ僕の姿勢が彼女に似てきたのかも知れない。

生きていく「苦しみ」に対して、彼女はどこか肯定的と言うか、共に歩んでいくべき存在として捉えている節がある。
だから、悲しい運命もやりきれない痛みも、彼女は無駄だなんて決して歌わない。
いつも辛いものは辛いものとして、受け入れて歩いていく。

その姿勢は、本作にも色濃く現れている。
「Time」で歌われているのは、長年の友人関係にある「あなた」への想いを秘めてずっと生きてきた「私」である。
「あなた」に気持ちを伝えられずにずっと傍にいたことを、辛いは辛いとしても、それだけには決してしない。

大好きな人にフラれて泣くあなたを

慰められるonly oneである幸せよ

逃したチャンスが私に

与えたものは案外大きい

溢した水はグラスに返らない 返らない

出会った頃の二人に

教えてあげたくなるくらい

あの頃より私たち魅力的 魅力的

強がりだと捉える人もいるかも知れないが、僕はそう思えない。
秘めてきた苦しみと傍にいられた幸せは表裏一体で、どちらも否定されるべきものではない。
両方を抱えて生きてきた日々の果ての今だからこそ「時を戻す呪文」を、という歌なのだと思っている。

 

さて、ここからは完全に僕の妄想になる。
僕には、「私」と「あなた」が同性であるような気がしてならない。

例えば、冒頭の歌詞。

カレシにも家族にも言えない

いろんなこと

あなたが聞いてくれたから

どんな孤独にも運命にも耐えられた

 

降り止まない雨に打たれて泣く私を

あなた以外の誰がいったい笑わせられるの?

わざわざカタカナのカレシ。
孤独と運命、降り止まない雨。
同性愛を描いていると思うと、その意味するところが何となく固まってくる。
「私」が男性にしろ女性にしろ、「あなた」は同性愛者としての苦しみを聞いてくれるヘテロの人なのだろう。

キスとその少しだけ先まで

いったこともあったけど

恋愛なんかに枠に収まる二人じゃないのよ

(そゆことそゆことそゆこと)

冗談で試してみたのかも知れない。
自分のことも好きになるのか、とか聞かれて。

最後、胸に秘めていたはずの「時を戻す呪文」を「君にあげよう」と歌う。
単に呪文を唱えるのではなく、その呪文の効果を「あなた」に委ねて終わるところが何とも宇多田ヒカルらしい。
そして、答えを待つ「私」の緊張を煽るようなシンセのクレッシェンドがあって急に幕を下ろす。
呪文を受け取った「あなた」の答えは分からない。
でも、もし僕がこの筋でドラマを書くなら、ここで「知ってた」と言わせたい。

こんな妄想をしてしまうのは、僕自身が同性愛者に近い性質の人間だから、というのももちろんあるが、もう一つ、宇多田ヒカル小袋成彬という組み合わせからの連想がある。
「Fantôme」というアルバムに、彼らがタッグを組んだ「ともだち 」という曲が収められている。

ともだち with 小袋成彬

ともだち with 小袋成彬

  • provided courtesy of iTunes

この楽曲は、明らかに同性愛が意識されていて、全編を通してその切なさが漂っている。
同じく共同制作と言うこともあって、二曲は音楽的にも似ている気がする。
だからこそ、二曲がどこかで繋がっているような気がするのだ。
いや、ただ繋がっていて欲しいと思っているだけなのかも知れない。
ファンは、火のないところに煙を立てるものだから。