童貞見聞録

アラサー超えてアラフォーのセクシャルマイノリティ童貞野郎が心に移りゆくよしなしごとをそこはかとなく書きつけるブログ

2024年7月2日

巷で絶賛の嵐を起こしている「ルックバック」を観てきた。
特別上映作品ということで、公開が短いのではないかと恐ろしかったので、少し無理をして行ってきた。
結果、おそらく公開規模は気にしなくて良いだろうくらいの傑作だった。
放っておいても規模は拡大し、期間も延長される。
それくらい力のある作品であることは、間違いない。


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元々、「チェンソーマン」が好きで藤本タツキ先生のことは知っていたし、原作の「ルックバック」も公開されて話題になっていた時に読んでいた。
抜群に面白かったし、作り手の熱量と世界に対する冷静な視点の両方が感じられて、漫画家に留まらず一人の創作者としての優秀さに驚かされたのを覚えている。
そして満を持しての映画化。
原作が強すぎたこともあって心配する声も聞かれたけれど、そんな懸念は一気に払拭されました。

原作ものの映画化で失敗するパターンの一つが、作り手のエゴが見えること、だと思う。
本作の場合、原作にも共通することだと思うけれど、誰のエゴも見えないところが本当に凄い。
純粋な「描きたい」「作りたい」という情熱が、そのまま絵になって動いている。
そのことが一貫しているから、本編の内容に強い説得力が生まれている。
描いて褒められて気持ちよくなること、自分より上手い人に出会って挫折すること、才能を認めている人に認められる喜び、誰かと一緒に創作する楽しさ…
全部、生のまま閉じ込められている。

あまり作品を見て自分語りなんて恥ずかしいことはしたくないが、研究者の世界も似たところがある。
一生懸命研究して見つけた発見を、どうにかこうにかまとめて論文にして発表する。
でも、自分より凄い研究をやって業績もバンバン出している優秀な人たちは、この世にいくらでもいることを知っている。
たまに、こんな塵紙にもならない研究はやめた方が良いとすら思ってしまうことだってある。
それでもたまに、憧れている研究者の人に自分の昔の論文を引用されたりなんかすると、天にも昇る気持ちになったりする。
誰かに「面白い」と言ってもらえただけで、続けていて良かったとか軽率に思ってしまったりする。
そんなことを思い出しながら、1時間に満たない上映時間の間、何度も涙を堪えられなくなっていた。