相変わらず朝ドラ「虎に翼」を観ている。
主人公寅子の大学の同級生である轟が、今朝、自身が同性愛者であることを「振り返ってみれば」と言うフレーズを繰り返して独白するシーンが放送された。
振り返ってみれば、子供の頃からやたらと「男らしさ」にこだわっていたこと。
振り返ってみれば、同じ同級生で同郷である花岡に特別な思いを抱いていたこと。
振り返ってみれば、そんな花岡の喜ぶ顔を傍で見たくて、同じ法律の道に進んだこと。
そして、そんな特別な気持ちに気づけたのは、彼を失った後に別の同級生である山田に指摘されたから。
彼が同性愛者であるらしいことは、まさに山田に指摘されたそのシーンで仄めかされていた。
多くの視聴者にとって青天の霹靂で、その時も物議を醸していた。
それが今週に入って、彼に新しい同性の恋人ができていたことが明らかになった。
それを見て、本作では、かなり真面目に同性愛者を描く覚悟があるのだと感じていた。
そこへ持ってきての、今日の独白。
毎回素晴らしい脚本だと思っていたが、期待を上回る誠実さだった。
同じ形質を持つ人間の一人として、とても嬉しく思っている。
こんなにも地に足の付いた同性愛者が朝ドラに登場したのは、初めてではないだろうか。
少なくとも僕の記憶にはない。
実は、数年前に放送されていた「半分、青い」と言う朝ドラでも、同性愛者のキャラクターが登場していた。
主人公の仕事仲間になるボクテというそのキャラクターは、いわゆる「的な」存在だった。
女性的な容姿と仕草をしていて、二言目には「ボクってゲイだから〜」と話し出す。
こう言う同性愛者もいるかも知れないが、全く現実感がなくて、コメディ要素として消費される虚しさがどうしても拭えなかった。
とんねるずの保毛尾田保毛男にしろ、オネエタレントの扱われ方にしろ、僕が子どもの頃のバラエティには、マジョリティによる暴力的なエンタメ消費が蔓延していた。
そのことを思い出して、「半分、青い」が放送された2018年でもまだそうなのかと、とてもガッカリしたことを覚えている。
しかし、2024年についに、ゆっくりと自分の性質を理解し、戸惑いながらも歩み始めて自らの半生を振り返る、余りにも真っ当な同性愛者が、朝の茶の間に登場してくれた。
今悩んでいるかも知れない、悩みにもならずにモヤモヤを抱えているかも知れない人々に、どんなに勇気を与えることだろう。
心からありがたいと思っている。
轟というキャラクターは、X上で良く#俺たちの轟 というハッシュタグをつけられて楽しまれている。
今こそ、#俺たちの轟 と称したい。
現在、本作は、婚姻によって姓が強制的に揃えられる問題と同性婚の問題、婚姻に伴う同居/別居の問題、果ては原爆による被害者の補償の問題が、ほぼ同時に俎上に並べられている。
しかし、その全てが憲法で保障される人権や個人の尊厳の点で関連している。
全てその基本に立ち返って考えるべきだということを、轟と山田が営む弁護士事務所の壁に書かれた日本国憲法14条の条文が、何度も何度も教えてくれる。
寅子は、轟は、山田は、他のキャラクター達は、一体どんな選択をしていくのか。
僕たちと同じ地平に生きていると思える彼らの人生から、目が離せない。