童貞見聞録

アラサー超えてアラフォーのセクシャルマイノリティ童貞野郎が心に移りゆくよしなしごとをそこはかとなく書きつけるブログ

同性愛映画のハッピー/バッドエンド ~ ムーンライト×ブロークバック・マウンテン

1か月以上前、忙しい期間に入る直前に日比谷で「ムーンライト」を観てきた。

同性愛映画は大好物なので、割と楽しみにしていた。
そして、期待以上に美しく、繊細な作品だった。
今頃になって感想をまとめるのもどうかと思うが、時間が経つほどに書きたくなってきたので、やはり残しておくことにする。

 


アカデミー賞候補作!『ムーンライト』本国予告編

 

シャロンという寡黙で内向的な男が、子供から大人になっていく過程をとにかく丁寧に描いた作品になっている。
本作において、シャロンはほとんど自分の気持ちを言葉にしないために、おそらく観る人によって無数の感じ方があったと思われる。
僕にとって、本作のラストは、究極に近いハッピーエンドだった。
シャロンは自分の愛を貫いて、それに相手も応えた。
例え、相手のそれが同情かも知れなかったとしても、「好きでいること」が許された、ということだけで十分彼にとっては救いだったはずだ。
求愛して、それを受け入れられる。
最もシンプルな形のハッピーエンドだと思うのだ。

確かに、ハッピーエンドと簡単に言ってしまうには、シャロンの人生はあまりに過酷だ。
学校では同性愛らしいことを理由にいじめられ、家には麻薬中毒の母親が待っている。
どこにも居場所がない中、唯一救いになる存在だったフアンは、ある矛盾を抱えていて、しかも急にいなくなってしまう。
そして、シャロン自身も大人になって業のようにフアンと同じ矛盾を抱えることになる。
それでも、彼は自分の気持ちを外に出すことが苦手な代わりに、ずっと腹の底で温めている。
多分、自分でもどうしようもなく手放せない思いを抱えて、彼なりの筋を通しつつ苦しみながら生き続け、そして、最後にそれが形の上だけでも報われたのだ。

何と言っても、二度挟まる海のシーンが素晴らしい。
シャロンにとっての夢のような性体験が描かれていて、エロティックでありつつ神秘的という不思議な感覚を持った。
音と映像だけでなく、生臭さと爽やかさが入り混じったような匂い、塩でひりつくような皮膚感覚、甘さとしょっぱさ、湿った風、海を象徴する全てが伝わってきて、しかも作品そのものとも完全にリンクしている。
海の母性と父性が同時に迫ってくるような、忘れられないシーンになった。

また、音楽の選曲も堪らない。
ペドロ・アルモドバル監督の「トーク・トゥ・ハー」での演奏が印象的なCaetano Velosoの「Cucurrucucú Paloma」がかかった時は震えた。
ウォン・カーウァイ監督の「ブエノスアイレス」のオマージュだそうで、まだ観ていないことを恥じている。

 

アカデミー賞でのハプニングですっかり有名になってしまったが、個人的にはLA LA LANDではなく、本作に作品賞がいったことは素直に嬉しい。
監督・キャストがほぼ全員黒人で、同性愛を描いていると言うことで、アカデミー史上でもエポックメイキングな作品になったことは間違いない。

ところで、アカデミー賞で同性愛映画と言うと、近年では「ブロークバック・マウンテン」が記憶に残っている。
残念ながら受賞には至らなかったけれども、ヒース・レジャーを一躍有名にした作品として知られている。


映画「ブロークバック・マウンテン」日本版劇場予告

 

ムーンライトとは対称的に、こちらは不実の果てのバッドエンドを象徴するような作品である。

主人公イニスとジャックはブロークバック・マウンテンの農場の季節労働者として二人だけのキャンプ生活を送るうちに、一線を越えてしまう。
しかし、二人は季節労働が終わると、それぞれの人生に戻っていく。
妻を持ち、子を持ち、はたから見れば幸せであるにもかかわらず、ジャックはイニスを訪ね、また逢瀬を重ねていく。

言ってみれば、不倫ものに同性愛要素を足した作品という風に雑にまとめることもできるかも知れない。
ジャックはイニスへの気持ちを捨てきれないまま婿養子に入って窮屈な生活を送っているし、イニスは妻と娘二人に囲まれた幸せな生活を送りながらジャックへの気持ちと幼いころに受けた同性愛に対するトラウマを燻らせている。
ムーンライトのシャロンと比較して、彼らはある意味で器用に生きることができる人間だったと言えるかも知れない。
この「小器用さ」と「諦めの悪さ」が誰も得をしない悲しい結末をもたらす。
彼らが「大人」だったから、と捉えることもできるかも知れない。

 

「ムーンライト」と「ブロークバック・マウンテン」は、極めて好対照な作品だと思う。
純愛と不純愛、ハッピーエンドとバッドエンド、黒人と白人、海と山、子どもと大人、21世紀と20世紀。
どちらも、良く出来た作品だと思うし、同性愛に限らず普遍的なテーマを背負っている。
二本立てに極めて適した組み合わせだと思う。