童貞見聞録

アラサー超えてアラフォーのセクシャルマイノリティ童貞野郎が心に移りゆくよしなしごとをそこはかとなく書きつけるブログ

2023年12月26日

TALK TO ME トーク・トゥ・ミー」を観てきた。
A24肝入りの新人監督による作品ということで、来年にはアリ・アスターの新作が控えていると言うし、今年の映画納めくらいのつもりで行ってきた。


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母親の自殺を受け入れず、父とはギクシャクしたまま。
家に居られず、親友の家に入り浸っている主人公ミアが、悪友たちの間で流行っているという「降霊会」にハマっていく…というストーリー。
伏線も綺麗に回収されていくし、象徴として描かれるシーンも物語的な意味が明快で、なおかつ気が利いている。
それに、ちゃんと怖いし、ちゃんと嫌な気持ちにさせられた。
久々に、後何分これが続くのだろう…と終了時間を気にした映画だった。
二度と観たくないと思わせたら、ホラーとしては良作だったと言えるだろう。

主人公はある意味で最初から「死」に取り憑かれていて、生きながらずっとそれに悩まされている。
他者との会話でも、意図的にその「死」が避けられていて、特に父親とは肝心の話がずっとできていなくて関係は破綻している。
なかなか向き合おうとしないミアに対して、「死」は、とてもカジュアルに、かつ魅力的に顕在化する。
「死」を抱えて孤独に陥っていく様子が何とも自然で、とても痛ましかった。

明示的に描かれているわけではないが、おそらく本作における「死」は、特に「自死」を描いたものではないかと思う。
冒頭シーンしかり、主人公の抱えるトラウマも母による自死であるし、自傷のシーンが度々挟まれる。
自分自身もそうだったので余計にそう思うのだが、「自死」は、10代の若者にとって魅力的なコンテンツに映る。
辛いことだらけで、うまくいかないことばかりで、誰も話をちゃんと聞いてはくれないし、分かってくれない。
もしかして死んだら楽になれるのではないか?
単に自意識過剰なだけだったり言語化能力が不足しているだけだったり視野が狭いだけだったりするのだけれど、この年代は容易に絶望する。
そして「自死」は、感染症のように蔓延する。
残された家族や友人は、延々と答えのない問いを繰り返し、後悔に苛まれる。
生きづらさを感じている人間には、選択肢の提示になるかも知れない。
本作で象徴的に描かれているように、周囲に「死」を振り撒いて引き込もうとする。
作中でも歳若い者ほど降霊から戻りにくいという描写があって、とてもリアルに感じてしまった。

キリスト教的な価値観において、「自死」はとても罪深いものとして認識されていると聞く。
日本に暮らしていると「自死」はそれほど珍しいことでもなく、大罪という意識は低いと思う。
本作は、その罪の深さを端的に示していると感じた。