童貞見聞録

アラサー超えてアラフォーのセクシャルマイノリティ童貞野郎が心に移りゆくよしなしごとをそこはかとなく書きつけるブログ

2024年6月22日

少し前に放送されたドキュメント20min.が素晴らしかった。

www.nhk.jp

いつも録画して観ているドキュメント72時間のスタッフが制作したと言う回。
72時間の終わりに宣伝されていて、興味を引かれたので予約しておいたのだが、大正解だった。
20分とは思えないくらい見応えのある映像に仕上がっている。

視聴者からの投稿をきっかけに、72時間スタッフが、赤羽駅前で靴を直しているという老人の元へ取材に訪れる。
ところが、待てど暮らせどその老人が現れない。
付近の人に聞いてみると、ここ最近見かけなくなったと言う。
そこで急遽方針を変更。
スタッフが連日路上に立って、老人の情報を待ちゆく人から集めていく。

最初から最後まで、老人は現れない。
生死も分からず、何ならフルネームも、顔写真すら映らない。
赤羽駅前で来る日も来る日も靴を直し続けた老人の姿が、街の人々の視点から好き好きに語られていく。
語られる言葉と共に浮かび上がってくるのは、赤羽という街の移り変わりだ。
おそらく老人は、亡くなってしまったか、病その他で引退を余儀なくされてしまったのだろう。
しかし、その正否は重要でない。
間違いなく言えることは、彼の不在が、ある種の「街の死」になっていると言うことだ。

かつて軍都として栄えた赤羽では、靴などの生産も盛んに行われていたそうだ。
終戦と共に街は様子を変え、飲屋街が連なる現在の姿に変わっていった。
靴を直していた彼は、赤羽の街の古い記憶の一つであり、存在そのものが歴史だったと言える。
姿を消した彼がいつもいた場所は、いまだ靴磨きのワックスか何かで黒く汚れている。
いつかきっとその汚れの理由も忘れられ、綺麗に周囲に馴染んでいくのだろう。
良いか悪いかの話ではない。
この20分のドキュメンタリーには、間違いなく「街の死」が閉じ込めれていた。