童貞見聞録

アラサー超えてアラフォーのセクシャルマイノリティ童貞野郎が心に移りゆくよしなしごとをそこはかとなく書きつけるブログ

ドキュメント72時間の意地の悪さ

僕は、NHKで放送されているドキュメント72時間という番組が大好きだ。

www4.nhk.or.jp

とあるスポットに3日間(72時間)カメラを構えて、そこに居合わせた人々の声に耳を傾けるドキュメンタリー番組だ。
実家にいた頃はやっていれば観る程度だったのが、数年ほど前からほぼ毎週欠かさず録画している。
新型コロナウィルスの流行もあってしばらく新作の放送がなかったのだが、2週間ほど前からようやく再開された。
休みの期間は過去の人気回の再放送がされていたのだが、それを何となく眺めていて、自分が何故この番組が好きなのか、少し分かってきた。

 

ドキュメント72時間には、絶妙な意地の悪さがある。
単なる意地悪ではない。
対象への愛を感じ取れるギリギリのラインの意地の悪さなのだ。 

最近の再放送の中でも出色の完成度だと感じた2016年7月放送「京都 青春の鴨川デルタ」から紹介する。

www.nhk-ondemand.jp

例えば、「たまこまーけっと」の聖地巡礼で訪れたという若い男性のシーン。
お調子者らしい少年(おそらく彼とは全く無関係)がインタビューを受ける彼の横に勝手に映り込んでくる。
それをそのまま使う感じ。
しかも、次のカットでは鴨川べりで会話を楽しむカップル越しに、飛び石を一人渡っていく彼の姿を映す。

例えば、対岸で騒ぐ大学生たちをくさしている地元出身の女子3人組。
中高と女子校に通い、大学で男子との距離感に悩んでいるという。
あのパリピ集団にもそこに馴染めない人間が一人はいるはずだ、と笑う彼女たちが最後にぽろっと「いいなあ…」と呟く姿を見逃さない。

絶対にわざとなのだ。
絵作りも、編集も、テンポも。

でも、決して馬鹿にしているわけではない、と僕は感じる。
例えば他のバラエティ番組であれば、彼らのセリフを派手なフォントで強調して下品な笑いのSEやスタジオのタレントのワイプを重ねていたはずだ。
ほら、ここが笑いどころだぞ、と言わんばかりに。
この番組はそうではない。
あくまでも一線は超えずに、愛しい彼らの姿を見せるに留めている。
彼らの姿から何を感じ取るかは、視聴者に委ねてくれる。
こいつら可愛いだろ、と言わんばかりの意地の悪さなのだ。

 

2つの例を示したが、もう一人、番組中盤で登場する男子大学生を紹介したい。
この回の白眉は、何と言っても彼を置いて他にはいないのだ。

新歓合宿の練習やら飲み会やらでワイワイする鴨川デルタの片隅で、彼はたった一人携帯を弄っていた。
この世の虚無を一人で抱え込んだような、どこか現実離れした雰囲気のある19歳。
聞けば、大学生として何をしたら良いのか分からず、夜中になると一人で鴨川デルタにやってきては滞在時間を積算してただ記録するという、これ以上ないくらいに不毛なTwitterアカウントを運営しているという。
暇を持て余しすぎた人間は、何を始めるか分からない。

ここで、この番組の意地の悪さが遺憾無く発揮される。
何より、彼に投げかける言葉の意地が悪い。

可能性がたくさんあるじゃないですか、良く言われない?

彼は不器用に笑いながら質問を返す。

ということは、今、僕が可能性を潰しているということですか?

さらに番組は追い討ちをかける。

周りを見ていてどう感じる? 

 彼は答える。

他人が他人に合わせるために、自分を頑張って取り繕っているように思います

一体、彼は人生何周目なのだろうか。
前世でどんな絶望があったというのか。 

そんな彼だが、実は番組後半で奇跡的な変化が起きる。
でも、やはり意地悪なドキュメント72時間は、それを劇的に見せたりは全くしない。
ただ淡々と、その日の彼の姿を見せるに留める。
いち視聴者に過ぎない僕は、 勝手に感動してしまう。

 

考えてみれば、僕自身、どこか他者を見つめる視線には「意地の悪さ」があるように思う。
誰かの弱い部分や脆い部分を見つけるとたまらなく愛おしくなるのだけど、それは裏を返せば人の弱みに敏感で粗探しばかりしている奴ということにならないか。
この番組は、そんな僕の視点に極めて近い。
誰かが本気で怒り出して、この番組が打ち切りにならないことを切に願う。