童貞見聞録

アラサーのセクシャルマイノリティ童貞野郎が心に移りゆくよしなしごとをそこはかとなく書きつけるブログ

生と死の不可分性 ~夜明け告げるルーのうた~

先日、「夜は短し歩けよ乙女」の感想をまとめたばかりだが、湯浅監督のオリジナル作品「夜明け告げるルーのうた」が公開されている。
先月19日に公開でまだまだ観られるだろうと高を括っていたら、何と残り数日で公開終了と言うことで焦って観に行ってきた。
素晴らしい作品だった。
あとほんの数日しか残っていないが、是非とも一人でも多く劇場に足を運んでもらいたいと思っている。
そして、この作品について語り合える相手が増えることを願っている。

というか、湯浅監督の想像力と創造力は、おそらく人類の宝だと思われるので、これから先、どんどんと素晴らしい作品を世に出して評価を受けていく方であることは間違いない。
この世界の片隅に」で片淵監督が一気に注目を集め、過去作品である「アリーテ姫」などが再評価されている現状を見るに、このタイミングで「夜明け告げるルーのうた」を劇場で観ておくことは、後々人に自慢できるだろうことは想像に難くない。


映画『夜明け告げるルーのうた』PV映像

本作は、子どもから大人まで、まさに老若男女問わず楽しめる作品だ。
湯浅監督らしい自由なアニメ表現炸裂で、ストーリーをとりあえず置いておいても、2時間十分楽しめる映像に仕上がっている。
しかし、僕は子どもにこそ、是非観てもらいたい作品だと思っている。
何故なら、とりわけ「生」と「死」の取り扱い方が、極めて健全だと感じるからだ。
その視点から、僕なりの感想をまとめておきたいと思う。

 

本作の人魚には、一種のルールがある。
ネタバレというほどではないと思うので書いておくと、「不老不死であること」と「噛んだ生き物が人魚になること」である。
(ただし、厳密には不死ではないのだけれども、広義の不死ではあると思うので)

作中、人間含めて幾つもの命が人魚に噛まれることによって助けられている。
それらの命は、元々の生物の記憶を残したまま、水の中で年を取ることもなく生きていく。
しかし、それは、残された人間にとっては「死んでいる」こととも言える。
ことほど左様に、本作の中では「生」と「死」は不可分な形で描かれている。
このテーマは、作中では「活き〆」というそのままのフレーズでも登場する。

考えてみれば、我々の「生」と「死」は全く分かれてはいない。
例えば、体のこと一つとっても、他の生き物の死体を摂取して維持しているわけで、無数の死でできていると言っても過言ではない。
そういった意味でも、「生」と「死」は常に両立していて、コインの裏表の関係にある。
そのことを、本作品は、映画的体験として納得させてくれる。

そして、本作はもう一つ、重要なことを教えてくれる。
「生」と「死」は、「良い」「悪い」とか「正しい」「間違い」とか「幸」「不幸」とかとは関係がない、ということだ。
不老不死は必ずしも良いものでないだろうし、逆に悪いものでもないはずだ。
その価値判断をするのは当人だけだからだ。
作中で大奮闘する二人の老人は、いずれも過去に人魚にまつわるトラウマを背負っている。
彼らにとっても、人魚は「死」でありながら「生」でもあって、実はそれが彼らの救いに繋がる。
彼らが迎える結末は、おそらく彼らにとっては正しく幸せなものであったろうが、起きた事象そのものは結構悲しいものでもある。

結局、当人が自らの「生」と「死」をどのように使うか、ということは、個人に与えられた究極の権利だと言える。
本作に出てくる人間のキャラクターは、皆、ある種のエゴイストだ。

誰とも関わりたくない、そっとしておいて欲しい。
有名になってちやほやされたい。
好きな子に振り向いて欲しい。
人魚ランドで町おこししたい。
金儲けしたい。

でも、それらのエゴイストたちが、「自分と身近な人のことくらいは守りたい」という一点で繋がって、それぞれが命を懸けて活躍する。
団結は、個々のエゴイズムの集積としてしか成立しえない。
「人にやさしく」とか「思いやり」とか、分かったような分からないような偽善的な標語よりも、余程現実的で、かつ説得力のあるメッセージが含まれていると感じた。

一方の本作で描かれる人魚たちは、いずれも純粋で無邪気な心優しい生き物のキャラクターに徹底されているところが面白い。
人間のエゴとは対照的に、博愛主義的ないわゆる「良いもの」が凝縮されているのだ。
多くの子どもたちは、本作を観ると人魚に好感を抱くようになるに違いない。
と、同時に、そのことが悪い方向に転がってしまうきっかけになってしまうことを目の当たりにする。

そして、それだけでは終わらない。
知恵がついてきたある日、何か違和感を覚えるはずだ。
人魚になることは「良いこと」か?
人間と人魚が仲良く暮らすことは可能か?
人魚を可愛いと思いつつ、同時に不気味に感じるはずだ。
「生」と「死」、もっと言えば生き物すべてを真面目に捉えた、大変教育的な作品だったと思う。

 

同じ人魚もので、似たテーマを持っているのは、何と言っても高橋留美子さんの人魚シリーズだろう。

この作品は、「うる星やつら」や「らんま1/2」に慣れた人だと驚くかもしれないが、かなりおどろおどろしい人魚にまつわるエピソードが集められた短編集になっている。
完全に青年以上向けに振り切った内容になっているが、この作品はまさに上で書いたようなことが具体的に展開されている。
夜明け告げるルーのうた」は、ジブリ作品の「崖の上のポニョ」と比較されることが多いようだけれども、流れている血としては、むしろこちらに近いのではないかと思う。

うる星やつら」が大好きだった従妹(当時小学生か中学生)が、同じ高橋作品と思って買ったはいいが持て余して家に送ってきたのが懐かしい。
どうやら、怖すぎて手元に置いておくのも嫌だったらしい。
二十歳を過ぎた今なら、彼女も別の感想を持つかもしれない。