童貞見聞録

アラサー超えてアラフォーのセクシャルマイノリティ童貞野郎が心に移りゆくよしなしごとをそこはかとなく書きつけるブログ

2024年2月5日

ようやく忙しい期間を抜けつつあり、時間に余裕が出てきた。
昨夜は「哀れなるものたち」を観てきた。


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予告の時から気にはなっていたものの、観に行こうとはそれほど思っていなかった。
が、アカデミー賞のこともあってかなり話題になっているし、一応観ておこうかという気持ちになったのであった。

天才外科医によって胎児の脳を移植された美しい女性ベラ。
段々と成長する彼女の目を通して、人間の欲望と業、世界の不条理が描かれていく。
ベラを含めて、登場するキャラクターたちは、みんなまともではない。
しかし、彼らの方がむしろ真っ当ではないかと思わせるような鋭い考察が混じっている。

例えば、ベラが初めて世界の残酷な仕組みを目の当たりにするシーン。
彼女はその有り様にショックを受けて、パートナーがギャンブルで大勝ちしたお金を全て投げ捨ててしまう。
そんなことには何の意味もなく、しかも彼女自身のお金ですらないのだけれど、そこには我々の欺瞞が映されている。
我々は、世界のどこかの不条理に気づいていながら、それを知らぬ振りしながらのうのうと毎日を送っている。
知っていながら何もせずなかったことにしている人々と、絶望して何でも良いから何かをした彼女と、一体どちらがまともだろうか?

ことほどさように、本作は世界や我々の抱える病に対して、何らかの問いかけをし続ける。
人間の生来の残虐性、性愛と愛情のもつれ、職業や性の差別、社会を改善する方法。
一つ一つが1本分の映画になりそうな大きいテーマを、ベラの視点で次々と見せられて、博覧会のような作品であった。
繰り返し映される"Poor things"
当然我々も含まれるし、社会も世界も、みんな哀れな存在である。
独特の美術と世界観で味付けは濃いめであったが、それだけに"哀れさ"の根源たる諸問題が生々しく映って、制作者の意図や切迫感が感じられた。

とは言え、正直、あまり好きな映画ではなかった。
フランケンシュタイン博士を彷彿とさせるマッドサイエンティストな外科医が登場することからも分かる通り、人体や動物改造の描写が割と多く、性描写も生々しい。
それ自体に物語上の意味もあって理解はできるけれども、好きで何度も観たいかと言われれば、そんなことはないかなと…
ただ、抜群に面白くはあった。
2時間20分と長めの作品ではあるけれども一度も飽きることはなかった。
良くも悪くも先の展開が読めず、終始ドキドキしていたと思う。
お金を出して観る価値のある作品であったことは間違いない。