童貞見聞録

アラサー超えてアラフォーのセクシャルマイノリティ童貞野郎が心に移りゆくよしなしごとをそこはかとなく書きつけるブログ

労働の行く末 〜映画すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ〜

新型コロナで行けなかった分を取り返すように、ほぼ毎日映画館に出かけている。
今日は「映画すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ」を観てきた。


www.youtube.com

映画になるのは、本作で3作目。
同僚に誘われて1作目を観に行ってうっかり感動してしまったのをきっかけに、前2作もしっかりと劇場で観ている。
そこへ来て、推しのPerfumeが主題歌を担当すると言うのだから、観に行かない理由がない。
それにしても、今回の主題歌、欲目かも知れないがとても良い。
カイリー・ミノーグのような少し憂いを含んだ浮遊感があって、それでいて耳に残るキャッチーなメロディ。
バックトラックも面白くて、映画館の音響で聴くのが楽しかった。

すみっコディスコ

すみっコディスコ

  • provided courtesy of iTunes

まだまだ公開されているので、内容には深く触れないようにする。
ただ、少しでもネタバレが気になる方は、この先は読まないことをオススメする。
一つだけ言えるのは、今すぐ映画館で観た方が良い、ということだ。

 

今作、今までで一番良かったかも知れない。
ちびっ子ばかりが観にくる日曜昼の回でおじさん一人、人目も憚らず涙してしまった。

お馴染みのすみっコたちが、ひょんなきっかけで見つけた古いおもちゃ工場で働き始める…と言うなんてことないストーリーのように見えてその実、労働の何たるかの一側面を鋭く捉えた見事な快作となっていた。
働き始めのすみっコたちは、労働意欲もたっぷり。
それぞれの得意が認められて、それが確かに役に立って、結果にも現れる。
もっと良くしようとアイデアを出し合って、生産性がどんどん向上する。
ところが、いつからか目標数だけが一人歩きを始めて、楽しかったはずの仕事に追われるようになってしまう。
これは、仕事をしたことのある人なら遅かれ早かれ直面する問題であり、それが小さな子でもちゃんと分かるように呈示される。

そして、何より素晴らしいのは、そこで終わらないところ。
この工場には経営者らしき人物がいるのだが、実は、彼が工場の目標を設定してすみっコたちをこき使っている訳ではない、と言うことが明らかになる。
つまり、労使ではなく、生産プロセスそのものが、システムの継続のために暴走していく。
生産品は街に溢れ、かつて幸せを届けていたはずのおもちゃは、不幸と混乱をもたらしている。
完全に手段が目的化して、誰も幸せにならない虚しい世界が生まれてしまう。
何という既視感。
世界のあちこちで見られるもので、長くアップデートされずに続いてしまったものには必ずついて回るものである。
現代日本において、どうしてもこれを子どもたちに届けたくなる気持ちは痛いほど分かる。

さらに本作は、その悲しい状況にきちんと答えを用意してくれている。
すみっコ自身のエピソードと重ねて、十分納得できる着地を決めてくれる。
子どもたちにも安心して見せられるし、まだ意味は分からなくても、いつか分かって欲しいと思える答えだった。
しかもそれが、まさに、劇場で観ることに意味がある形で示される。
エンドロールもしっかりとすみっコたちを追っていた人だけが分かるという、何ともオシャレな仕掛け。
映画という媒体そのものを愛してやまない製作陣の姿勢に、胸打たれてしまった。

本作、子ども向けということもあって、長編映画としては短い70分の作品となっている。
この濃度の内容を、分かりやすくかつ簡潔にまとめ上げ、しかもちゃんと面白く仕上げた脚本には本当に驚かされる。
無駄なシーンが一つもない、美しい映画だった。
騙されたと思って、是非、映画館に観に行って欲しい。
普段劇場で映画をあまり観ない方に、今何を観たら良いかと尋ねられたら、多分今作を薦めると思う。
損はさせない自信がある。