童貞見聞録

アラサー超えてアラフォーのセクシャルマイノリティ童貞野郎が心に移りゆくよしなしごとをそこはかとなく書きつけるブログ

ファースト・カウ

仕事終わりに「ファースト・カウ」を観に行ってきた。


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素晴らしかった。
どうしてこんな面白い話が思いつけるのだろう。
嫉妬さえするレベルだった。
映画としては派手さもないし暗闇のシーンが続くので、人によっては眠くなってしまうかも知れない。
実際、少しとっつきにくさがある独特の時間の使い方がされているので、物語の本筋を追うのにそれなりの集中力が要求されるだろう。
だけれども、おや?と思ったあたりからはもう、ずっとこの物語の虜になる。

 

主人公は二人。
毛皮で一攫千金を狙って荒くれ者が集う西部開拓時代のオレゴン
その中にあって、臆病で心優しく全く馴染めない男クッキーと中国から渡ってきてひょんなことから追われる身となったキング・ルー。
無法者が跋扈する中、居場所を無くした二人が身を寄せ合って、ある大胆かつ痛快なビジネスを思いつく。

物語は、強者のものになりがちである。
その方が盛り上がるし、分かりやすい。
けれども、本当は、みんなが見えていなかったもの、見ないようにしているものにスポットを当ててこそ、意味がある。
映画も、小説も、漫画も、ありとあらゆる創作物は、本来そう言う側面を持っている。
本作は、おそらく何の痕跡も世の中に残せなかったであろう二人の物語である。
彼らは、最初から世界に拒絶された者たちで、何者でもなかった。
けれどこの作品は、そんな彼らの物語を丁寧に掬い上げている。
フィクションではあるけれど、間違いなく2時間の間、そこに存在していた。
そして彼らの生き様は、とんでもなく面白かった。

世界は、ほんの一握りの強者のためにあるのではない。
圧倒的多数の弱者のためにも、当然存在する。
そして本来我々は、等しくその弱者の一人である。
だから、この作品は、私たちの物語でもある。
見終わった後、この世界に存在する全ての弱者たちの物語への感度が上がった気がした。
ある意味で、世界の見え方を変える力があったと思う。