童貞見聞録

アラサー超えてアラフォーのセクシャルマイノリティ童貞野郎が心に移りゆくよしなしごとをそこはかとなく書きつけるブログ

好意を受ける作法

僕は、人からの好意を受け取ることが酷く苦手だ。
特に、恋愛的な意味において。
そのことが原因で面倒なことになったことも幾たびか起きている。
前々から書こうと思っていたことだったが、何となく気が引けて書けていなかった。


ところが。
長くブログを更新していなかった頃に、まさにそのことを原因とする面倒ごとが起きてしまった。

ブログを書けなくなっていた頃、海外出張が幾つか重なっていたのも忙しさの原因の一つだった。
そんな出張の一つに、とある国で開催されたサマープログラムに参加する、というものがあった。
毎年開催されているもので、同じような研究を行っている大学院生や若手研究者が世界中から集められ、1週間程度の講義と実習を受けながら交流する。
現在所属している組織もプログラムの協力機関となっていて、旅費の補助も出されるということだったので参加したのだ。
プログラム自体は、特に、大きなトラブルもなく終了した。
案外講義がみっちりと詰め込まれていて驚いたものの、夜に参加者の一部で近くのビーチまで出かけて行ったり、それなりに楽しくもあった。

しかし、僕はそこで、彼女に出会ってしまった。

 

彼女は元々中国の出身であったが、とある英語圏の国の大学に留学中で、まだ大学院生とのことだった。
大変苦労したとのことだったが、僕なんかよりはるかに悠長に英語を操っていた。
正直、プログラム中、彼女と特別良く話したという記憶はない。
彼女は誰に対しても良く話しかけていたし、僕にだけ、ということはなかったはずだ。
SNSのアカウントを交換したのだって彼女だけではなかったし、それだってビーチに出かけた10人以上のグループで写真を共有するためだったはずだ。
最終日にメンバー達がそれぞれの国に帰るとき、彼女は棗の入った袋を渡してきたが、それだって他の人にも渡していた。

帰国後一週間位すると、SNSを通じて彼女からメッセージが届くようになった。
正直言うと、海外に多少仲の良い友達ができたくらいの気持ちで、僕は適当に返信していた。
話題は何ということもないことだった。
今日はどこどこに行った、とか、先生にこんなことを言われた、とか。
適当に返している内に、毎日毎日メッセージが来るようになり、次第にI miss youとかwant to see youとかが増えてきて、個人的なことが大量に書かれた長文のメールが仕事用のアドレスに送られてくるようになった。
極めつけは、クリスマスに日本に行くことにしたから会おうと言われてしまった。

 

流石にここまで来ると、僕も気付き始めた。
これは、友情以上の好意を持たれてしまっている、と。

最初は、海外の人はコミュニケーションが積極的だなあとか英語の練習にもなるし助かるなあとか甘く考えていたのだ。
まさか自分が好意を持たれるなんて思ってもみないことだった。
それに、勘違いすることほど恥ずかしいことはないと思って、選択肢から排除していた。

当然だが、僕は彼女の気持ちに応えることはできない。
なるべく丁寧に英語を書いて返信した。
僕は、無性愛者であり、誰とも恋愛感情を持って付き合ったりはできないこと。
何より彼女のことを、友達以上に考えることはできないこと。
これ以上やり取りをしても時間の無駄になるだけだから、会うこともしない方が良いだろう、と。

 

メールを返しながら、またか、と思っていた。

これまでも(学生時代)、人から好意を持たれることはあった。
共通していたのは、周りにあまり馴染めていない少し変わった性格をしていた女性だったことだ。
僕はあまりそういうことは気にしないし、むしろ面白いと思って話を聞いていた。
そうしていると、段々向こうからの接触が増えてきて、そんなつもりではなかったんだけど、ということになる。
だから、告白されても今回同様丁重にお断りしてきたし、以来そうした傾向のある女性との距離感には気を付けるようにしていたのだ。
でも、海外の人だったということもあって、見抜けなかったようだ。
よもやこの悪い癖がグローバルに展開されることになろうとは。

僕は、(恋愛的な意味で)人から好意を持たれると、一気に引いてしまう。
気持ち悪い、という程はいかないにしても、途端に面倒くさくなる。
だって、その好意に応えることなんてできないのだから。
好意がないのに付き合っていけるほど僕は器用じゃないし、好意を求められるなんてもっと困る。
だからなるべく早い段階で断るようにしてきたつもりだし、それが誠意なのだと思っていた。

昔友達から借りて読んだ少女漫画に「人から好意を告げられて嫌がる人はいない」とか書かれていたのを思い出す。
あれは嘘だ。
少なくとも僕は好意を告げられると、「あーあ、この人との友情も終わりか」と思ってしまう。
少女漫画だととんでもなく残酷で不実なキャラクターということになるのかも知れない。

 

さて。
件の彼女だが、その後の話を簡単に書いておく。

まず、お断りの返信の後が大変だった。
I cried, cried, and cried last night、I can't understand youと激しい長文のメールが頻繁に届いていたが、私から返信することはなかった。
メールには色々と書かれていたが、どうやら彼女、中国でも好きだった人にしつこくし過ぎて拒否され、それで大学にいられなくなって留学していたらしい。
しばらくすると、I became strongerでtry to understand youだからせめて住所を教えて欲しい(クリスマスプレゼントを贈るから)などとメールが来るようになった。
もう私から返信することは一切なかったが、仕事場にマフラーや月餅の入った袋が贈られてきたのには驚いた。

そしてついには、彼女が実験のために来日したとき、私の住む町までわざわざやってくると言い、とある日曜にI'm at ** city, heheというメッセージが届いた。
メリーさんを思い出して、背筋が凍る思いだった。
たまたま仕事で職場にいたのだが、最悪職場まで来るかもと恐ろしくて、同僚とずっと一緒に行動するようにしていた(事情を話すことはできなかったけれど)。
夕方にI leave hereと来た時には心底ほっとした。
その後も数か月に一度くらいのペースで、思い出したようにメールが届く。
家族に不幸があったりなかなか大変だそうだが、ちゃっかり研究の手伝いを無償でさせようとしていたりして図太い。

でも、僕はこれまでの経験で知っている。
このタイプの人は、次の人が見つかると早いのだ。

今までもそうだった。
好意の受け取り方として正しかっただろうか、と散々振り回されても、向こうは次が見つかれば過去の思い出に変わる。
昔好意を持ってくれていた女性と偶然再会することがあったけれど、「あの頃は恋に恋していたからなあ」と面と向かって言われてしまった。
やはり面倒くさい、と思ってしまう。